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染色のはじまり

Color Workshop by Mayuko Shimizu (3) | 2006/10/07-08 | 
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福島県立美術館で行った、2日間の染色ワークショップ。染織家・清水繭子によるシリーズ第三弾。

会場では、「ハギレの日本文化誌」という、小さな布を集めて日本の生活文化を見直す展覧会が企画されており、せっかくだからこのワークショップでも、ただの技術的な指導に終わらず、染色の歴史に触れられるような形にしたいと、清水さんと企画を練りました。

以下は、企画中にブログに書いた文章。(一部抜粋)

現代の生活で「色」は、たとえばチューブに入った絵の具が沢山売られているように、ほとんどプロダクトになっている。「色」は買ってくるのが普通で、草木染めは特殊な伝統的技法、というのが、一般的な理解といってよい。彩り華やかな服や工業製品も、どうやって着色されたのかを気にすることはない。けれども、チューブや化学染料はもちろん、土器もなかったような時代から、人間は、その時代時代の技術に応じて自然から生活へ「色」を取り入れてきた。

もっとも原始的な形態は、染料の場合、植物をこすりつけて「色」を転写することだったろう。そのうち、植物をすりつぶした液を用いるようになる。

芭蕉に、「早苗とる手もとやむかししのぶ摺り」という句があって、この「しのぶ摺り」というのは、石に布を敷きその上に載せたしのぶ(シダ類の一種)を叩いて染める古い技法のこと。ちょうど「しのぶの里」と呼ばれた福島市で詠まれた句でもある。

やがて土器が使われるようになると、植物を煎じて飲むようになり、煮出した染液が用いられるようになる。鉄器の発明は、鉄媒染がうまれる遠因であり、こうして生活技術と歩調をあわせながら、染色の技術も確立してきた。

このワークショップでは、そうした染色のもっとも素朴な時代の技術を辿りながら、美術館周辺の植物で染めてみることで、生活のなかの「色」を考え直すきっかけにしたいと思っています。

ということで、「染色のはじまり」というテーマを設定。まだ土器もない時代、どうやって草から色を取り出しただろう、と原始の世界に想像を働かせるところからはじめることにした。ヒントになったのは、藤森照信さんの『人類と建築の歴史』(ちくまプリマー新書)。

建築のはじまりの数ステップ、旧石器時代、新石器時代、青銅器時代のころまでは、世界のどこでもほぼ同じだった。原始的な信仰と石器や鉄器の発達にあわせて、建築がつくられていたからだ。文明が発達するにつれ、それぞれの地域で多様な様式に分化していき、共通性はなくなる。各地の文化の発展だ。ところが、大航海時代を経て、産業革命以降は、世界の建築はふたたびひとつの様式に収斂する。モダニズム建築の出現である。そして、いまでは世界のどこへ行っても、同じような建物を目にすることができる。

染色も、同じだなあ、と。染液を使うようになり、媒染ができるようになるところまで(日本でいうと弥生時代くらいまで)は、おそらく世界中でそれほど変わりはなかっただろう。その後、各地でおそろしく多様な染織文化が発展するが、現代の主流である化学染料は、世界共通の産業技術になっている。

この最初の数ステップを、ワークショップにできないだろうか。そして、染色のはじまりを辿ることが、現代の色を考え直すきっかけになるのでは。ということで、プログラムをつくりました。

以下、ワークショップのレポートです。

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2日間の経験を持って帰ってもらうフォーマットとして、組み立て式
の箱を用意。そのほか、簡単なリーフレットと、麻、絹のハギレを入
れたワークショップ・キット。

1日目

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まずは近くで採集してきた草花や実をつかって、麻を染めてみます。
まだ、土器はありません。ということで、「原始的」な道具を用意。
みなさんに、自由に染めてもらいます。

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やはり! 麻のハギレに実や花を置いて、叩きつぶします。部屋中
が、石や木槌を叩く音に満たされ、少し旧石器な気分に。
ちなみに、擦染めの技法は、凹凸のある石などの上で叩いて、布に
模様を転写します。

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それでも、かなりいろいろな色が出るという、見本のようなハギレ。
右手前の紺色は、露草。この色は、数週間はもちそう。

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一息ついたところで、2日間のインストラクション。
この後、山梔子(くちなし)、臭木(くさぎ)、桃、玉葱、どんぐり、
枇杷(びわ)を順に染めていきます。山梔子は、最も古い染料のひと
つ。強い黄色が出るので、麻を染めます。

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こちらは、臭木(くさぎ)。残念ながら美術館の周辺では見つからな
かったため、鎌倉から持参したものです。

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臭木を染めているところ。鮮やかな水色に染まります。
ここから、ハギレは絹へ。麻から絹へ、白の明度がかわることで、
より微妙な色合いを染めることができるようになります。

1日目は、ここで終了。翌日の染料を煮だす準備をして、解散。

2日目

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染料を煮ているあいだ、雨のために昨日はできなかった散歩を。
美術館の敷地内をひとめぐり。擦染めでつかった花や実を、改めて
見つける。

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戻ってからは、すぐに染色に取りかかる。玉葱やどんぐりを煮た染液
の匂いを。もとは薬を煎じて煮たのがはじまりといわれるように、
草木を土器で煮だすのは、色に先立って、嗅覚や味覚の問題だった
のだろう。目や舌や鼻へ五感が分化するまえの、ダイレクトな感覚。

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この日はさらに進化して、媒染も行う。媒染材は、鉄と灰。鉄器を
使うようになり、人は鉄媒染をはじめる。手間はかかるが、発色と
定着が、格段によくなる。

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染め上がったハギレ。左から、山梔子、臭木、どんぐり、玉葱、枇
杷、桃。枇杷は、美術館の橋本さんのお宅からいただいたもの。
桃は、下見の際に偶然飛び込んだ、あんざい果樹園さんにいただき
ました。(後から友人に教えてもらったのですが、あんざい果樹園
には、素敵なカフェがあるそうです。残念。)

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どの色がどの植物のものだったか書き留める表紙をつくったあと、
いよいよ、箱の制作にとりかかる。

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夕方に近づいたころ、完成。他の人の作品をみせていただいて、感
想をシェアして、無事終了。

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参加者のみなさんがつくった作品。それぞれの2日間の記憶を、箱に
詰めて持ち帰っていただきました。