mitatop

三田の家:もうひとつの学び場に向けて

MITA House | 2006〜 | 
| mita | projects | research | works |

慶應義塾大学三田キャンパスの程近くに古い一軒家を借り、教員、学生、街の人々との共同で、地域のコモンハウスのような場を運営しています。

日ごろの活動は、こちらをどうぞ。
→三田の家ウェブサイト

以下は、「三田の家」のオープン時に書いた紹介文。

「三田の家」は、慶應義塾大学教養研究センター「インター・キャンパス構築」プログラムと三田商店街振興組合が共同し、教員、学生、商店街、その他からなる有志メンバーによって進めるプロジェクトです。「大学の傍らにある、自主運営のラウンジ的な教室」を目指して、2006年5月より大学の程近くに木造住宅を借り受け、約半年にわたって改装工事と企画作業を進めてきました。2006年9月30日より活動をはじめ、まず来春までの半年間は、メンバーによる日替わり運営など試験的な場づくりを試みます。

大学のある街・港区三田ですが、地域と大学の関係はかつてほど密接ではなくなっています。居心地の良い喫茶店や古書店も少なくなり、学生も、教員も、大学の周辺で時間を過ごすことはあまり多くはありません。また大学のキャンパス内にも、外部社会に対してはもちろん、大学の内部においてすら、自由な交流の起きうる場が開かれているとはいえないのが現状です。

そこで私たちは、従来「異分野」「多文化」「異組織」ゆえに、近隣で生活していても出会うことの稀であった人たちがカジュアルに出会い、学びあい、交歓する場(インター・キャンパス)の創出を目指してこのプロジェクトをスタートさせました。学生・教職員と地域住民、留学生と日本人学生、地域の在勤者と商店主などが、日頃の制度的バリアから半ば解放され、カジュアルに交わりながら様々な活動を共に行なっていけるような、「教室」と「居酒屋」との中間的な場をイメージしています。ここから、新しい「学び」や「出会い」、「まちづくり」の形が生まれてゆくことを期待しています。

大学と地域の交流プロセスとしての「三田の家」について、思うところいくつか。

「三田の家」は、大学の延長でもあり、地域コミュニティの文脈にも置かれている、大学と地域の「あいだ」の場所。そうした中間的な場で、社会的には異なる所属の人々が、個人として回路を開き合うことからはじまる「こと」のほうが、組織と組織の取り決めで動かす事業よりも魅力的で実効力がある場合だってある。

大学の地域貢献や研究の情報発信など、大学の「社会化」の必要がいわれ、地域社会や企業も、大学との共同研究に期待を寄せてはいるけれども、大学は「社会」を、社会は「大学」を、それぞれ「向こう側の世界」として、色眼鏡を通して見ているように思えてならない。

同じ地域で、教えたり、学んだり、商売を営んだりしている人々は、立場や関心は異なっていても、そこで生活をしているという点で変わらない。

生活のレベルまでいろんなものを取り去った上で、なおかつ残る信頼感や、それぞれの知識や課題が集まって生じることたちがまっすぐ育って行ったら、いったいどんな街(=キャンパス)が出現するだろう。

良く知られているように、港区・三田地域と慶應義塾大学の歴史的なつながりは深い。また、大学には複数の学部があり、周辺には多くの商店と住宅街のほか、様々な企業と各国の大使館がある多様な地域だ。

「三田の家」という共同運営のコモンハウスは、いまのところ制度的に分断されている「たくさんのひとりひとり」が、それぞれの関係をとり直すことではじまる、地域のプロセスのスタート地点。時間はかかるかもしれないけれど、腰を据えて取り組むだけの可能性を秘めているのではないかと思っている。

そんなことを思い描きながら、はじめて三田商店街を訪ねたのは、2003年の夏。そこから「三田の家」ができるまで、3年。おそらく、本質的な効果が現れるのは、「三田の家」やそこを起点にしたアクティビティが「あってあたりまえ」と誰もが感じるようになる頃だと思う。それまで、10年弱はかかるだろうか。大学で働く者としてよりも、一人の個人として、この地域、このプロセスに付き合っていきたいと思っています。