どこから先は教育でないのか:芝の家・コミュニティ菜園プロジェクトの挑戦

by SAKAKURA kyosuke | 2010/ 04/ 3 | Posted in notes,[notes]education,[notes]芝の家,大学地域連携 | 

芝の家では「コミュニティ菜園プロジェクト」という活動がはじまっています。昨年、芝の家植物係のあやちゃんがはじめ、杉山さん(町会長)やべべの想いが合流し、いまでは近隣の10数件の「里親さん」たちがみんなで植えた鉢植えを預かり、遊びに来た子どもと路地をめぐって水やりをしてまわったり、植物の世話の合間に里親さんたちと立ち話を楽しんだりと、いまではすっかり、この界隈の日常的な風景になっています。

小さくはありますが、地域にとってもひとつの「出来事」であり、いろいろな人が自然に交流するきっかけになっています。これを大学という教育機関としての視点からみるなら、楽しいサークル活動というだけではなく、多世代異文化の人たち同士の「出会い」や「学び合い」にもつながり得る、豊かな可能性を持つ活動だと思います。

ということで大学としては、この活動を、コミュニティの学び場づくりプロジェクトという、教養研究センターの教育GPで行う実験的教育プログラムとして後押しすることにしました。植物の世話をともにするほか、地域や環境について学び合えるようなゆるやかなコミュニティができたら素敵です。こうした地域との連携による教育プログラムは、最近ではいくつかの大学ではじまっており、珍しくはありません。学内の人間関係だけではなく、幅広い年齢層、価値観を持った人たちとの協働から得られる経験が、学生の人間力やコミュニケーション力の醸成につながると期待がひろがっているのでしょう。

こうした傾向はとてもよいと思うのですが、しかし、これをとことんまで突き詰めて行くと、あるジレンマに突き当たるのではないか、と考えています。表面的なフィールドワークや地域研究ではなく、本当の意味で「学び合い」が起こるほど活動の自発性が高まるにつれて、「これが授業である理由があるのか?」、「大学が実施すべきプログラムなのか?」という疑問が持ち上がります。そうした「学びのコミュニティ」は、大学が関与しなくても発展していくでしょうし、テストやレポートを経て単位が取得できるかどうかといった評価は、当事者にとってどんどん問題にならなくなっていきます。

この問題は結構根深くて、というのも、教育とは、一般にアプトプットで確かめられねばならないと考えられているからです。外部から見てその人がどんなに「良い経験」をしているように見えたとしても、こと教育という概念からは、その人のアウトプットが「良い経験」の前後でどれくらい質的に変化したかが証明されなければなりません。やりっぱなしは教育ではないし、学習が起こったとは見なされない。そういう論理もわからないではなくて、なぜなら、良い経験と思われることがすなわち学習だと考えてしまうと、教育者の思い込みで教育効果が得られたと断定することが(本人の実感を無視して)いくらでも可能になってしまうからです。

学ぶ側の人にとっては、「学びのコミュニティ」が成熟すればするほど、大学が用意する制度(教室とか単位とか)は不要になってしまう。大学にとっては、明らかに「学びのコミュニティ」が成長しているにもかかわらず、そこで生じたはずの個々人の学習成果を確かめるすべを徐々に失ってしまう。いったいどこまでを「教育プログラム」といってよいのか、また大学と「学びのコミュニティ」はまた別の関係の仕方ができるのか。今年は、こういう問題意識から、コミュニティ菜園プロジェクトの展開を見守りたいと思っています。

コミュニティ菜園プロジェクトは、もともとが(教員の発案ではないという意味で)自然発生の活動です。そして、いまも日々自然に発展しています。「何曜日の何時間目に何番教室で」という通常の教育活動が生息する環境とはまったく違って、ある日芝の家に集まった人たちが年間のスケジュールを話し合い、ふらりと訪れた町会長(実行委員長でもある)と植える植物の相談が起こる。芝の家という環境に、あやちゃんやべべやいろいろな人が出入りし、アイデアや知識や想いを交換することを通じて、日々成長している「学びのコミュニティ」です。

これをあえて「教育プログラム」と考えてみたいと、今年の杏之介は思っているわけです。常識的には「本末転倒」なのですが、いま目の前で成長しつつある「学びのコミュニティ」の力を削ぐことなく、なおかつ「教育プログラム」として見ていくことで、「どこから先が教育ではないのか」が見えてくるのではないか。翻って、大学がコミュニティの学びに貢献できるのはどの部分なのかを探求したいと思っています。

→コミュニティ菜園プロジェクト・メンバー募集

saien-boshu.jpg