遠隔的触覚としての聴覚
HEREing Lossのワークショップについての論文を書くために『世界の調律』を読み直していたら、素敵な文章に出会いました。
触覚は五感のうちで最も個人的な感覚である。聞くことと触れることは可聴音の周波数の低い部分が肌で感じることのできる振動に移行するところーーおよそ20ヘルツーーで重なる。聞くことは離れたものに触るひとつの方法である。人々が集まり何か特別なものを一緒に聞くといつでも、聴覚の中に潜むそうしたある種の触覚的な感覚がそのグループ全体に親密な一体感をもたらすのである。
(マリー・R・シェーファー『世界の調律—サウンドスケープとはなにか』、鳥越けい子ほか訳、平凡社、1986年、33頁)
以前に読んだときに、ここに引っかからなかった理由は、まだ自分にこうした「ともに聴く」という経験が乏しかったからだろう。遠くのものに触れる感覚器官としての聴覚。そして、ともに耳を傾けるひとたちのあいだに訪れる共感。聴くことを通じて、出来事にともに立ち会い、互いに触れ合うこと。